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まぼろしの豚が醸す味わい
チンタセネーゼのスライスサラミ

 32号の本欄で、イタリア原産種の豚チンタセネーゼで作る、至高のプロシュートをご紹介しました。ご記憶の向きも多いことでしょう。
 チンタセネーゼは、パオロ・パリーズィという一人の牧畜家が、絶滅の危機から救った希少な品種。わずか三頭から自然放牧による飼育を始め、よい豚の条件をすべて備えた、最高峰の豚との評価を得るまでに至りました。
 この豚の特徴は、なんといっても脂のおいしさです。透明度が高く、口当たりはまるでバターのよう。含まれる脂肪分も多く、大量生産の豚は5パーセント程度なのに対し、チンタセネーゼは30〜35パーセントに及びます。
 パオロは、チンタセネーゼをできるだけ人間の手をかけずに育てます。太陽の光を浴びながら、森のなかを自由に走りまわり、ハーブや木の実などを気の向くまま食べるーこれが、良質の肉が生まれる所以。このような自然のままの環境で育つからこそ、栄養が豊富で、適度な弾力と硬さを併せ持つ理想的な豚肉が生まれるのです。
 さて、今回ご紹介するのは、パオロのチンタセネーゼを使った、まさに絶品のサラミ。
No.55/冬号
 マントヴァにあるルセッティサルミという加工業者の製品ですが、その製法はパオロ仕様で、美食家としても名高い彼ならではの細かい指示が、忠実に守られています。
 たとえば、塩はブルターニュの自然塩、香辛料もパオロが厳選、といった具合。チンタセネーゼは、生存競争に勝ち抜いた、二歳以上の強くて健康な豚のみを使用。この豚自身の腸に、粗めに挽いた肩肉を詰め、独自の方法でワインを混ぜてから、何日間か乾燥室に吊るし、さらにカンティーナへ移してじっくりと熟成させます。
 カンティーナは、いわばワインセラーのように温度管理された室。人工的な発酵菌はいっさい使わず、ちょうど日本の古い醤油蔵にあるような、自然の発酵菌を使用します。この菌の活動を促すために、腸詰めする際にふつうは砂糖やミルクパウダーを混ぜるところ、ワインを合わせるのだとか。
 熟成が進むと、サラミの表面にクレマトゥーラという白色の黴が生まれます。先ごろ入荷したものは、黴をきれいに落として、写真のように真空パックしたものです。こうしないと、真っ白い黴に覆われて、サラミが徐々に硬くなってしまうとのこと。チンタセネーゼならではの、ソフトな食感を知ってもらいたいとのパオロの想いが、こんなところからも伺われます。
 一枚食べれば、サラミの概念がきっと覆されることでしょう。食べた後にじっくりと包み込んでくるような余韻も、また格別です。
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